中小建設業のデジタル化 3

この10年ほどで業界全体にも大きな変革が及びデジタル化へのインセンティブが高まっています。
「中小建設業のデジタル化 1~2」でおよそこの10年における中小の建設業者のデジタル化の取り組みと現状の環境についての現状を分析・解説してきました。
先回の投稿から時間が経過してしまいましたので「中小建設業のデジタル化 1~2」の要約を下記します。

1,ここまでの整理

1-1 建設業のデジタル化、その現在位置

<要約>

  • デジタル化が進む生産管理分野
  • ERP基幹システム分野の伸び悩み
  • 組織のITリテラシー不足
  • 長年の取引慣行
  • アナログ文化・価値観の定着
  • 長年の取引慣行

1-2 中小の建設企業を取り巻く環境変化と課題

1-2-1 業界の内部環境変化=企業にとっての外部環境変化
  • 女性活用推進法
  • テレワーク的なコミュニケーション
  • BIMやCIMといった技法
  • AI,ロボットの活用
  • 市場環境は堅調
  • 大手ゼネコン主導のデジタル化
  • コンプライアンス要請
  • 少子高齢化による若年層の人口不足
BIMはCADから発展したモデリング技法です
1-2-2 中小建設企業の内部環境
  • 意思決定のスピード
  • 特定分野への専門性
  • 経営の柔軟性
  • 乏しい経営資源
  • 担い手の世代交代
  • 経営者の世代交代

2,デジタル化の方向、その選択肢

企業のデジタル化はそれ自体が目的ではありません。
デジタル化は企業の経営戦略の実現を効率的にサポートする道具です。
デジタル化の方向性は、経営戦略によります。

2-1 経営戦略の策定

経営戦略の策定ツールとしてSWOTがあります。事業環境変化に対応した経営資源の最適活用を図る経営戦略策定方法の一つで

企業や業界を取り巻く環境を外部環境
自社に内在する強みや弱みを内部環境
としてそれぞれ、ポジティブファクター、ネガティブファクターに分類します。
こうして4つに分類された環境要因を俯瞰、分析することをSWOT分析といいます。

S(Strong):自社の強み
W(Weakness):自社の弱点
O(Opportunity):機会 自社にとってチャンスとなる外部環境変化
T(Threat):脅威 自社にとって脅威となる外部環境変化

そして想定されるこの4つの環境要因の組み合わせに対し経営戦略を立案し、分析することをCrossSWOT分析といいます。
すなわち、

S⇔O:自社の強みを生かしてチャンスを活かす戦略
S⇔T:自社の強みを活かして脅威を排除する。
W⇔O:チャンスを活かすために自社の弱みを排除する
W⇔T:脅威による被害を最小化するために自社の弱点を排除する。あるいは撤退する

こうした様々な環境変化に対応した戦略を導きだしてゆくわけです。

ここまでにご紹介した中小建設企業を取り巻く環境変化と課題からSWOTとクロスSWOT分析を演習してみます。

2-2 SWOT 分析

中小の建設企業を取り巻く環境要因は「中小建設業のデジタル化 2」で典型的なものを例示しています。

S  スピード感ある意思決定、社内コミュニケーションの容易さ、特定分野への専門性、経営の柔軟性
W 経営資源に乏しい、大規模設備投資ができない、全国展開が難しい、人材不足
O 女性の活用、テレワーク、AI・ロボット、デジタル化
T 大手ゼネコンのデジタル化圧力、人材不足(高齢化)、アナログ文化

S(Strong)は企業により千差万別です。中小企業であっても意思決定のスピードが遅く風通しの悪い企業はあるでしょう。
しかし、ここでは中小企業が大企業と差別化できる要素を典型的にSとして列挙しました。
W(Weak)も同様です。ここでは典型的な中小企業の弱みを列挙しましたが、企業によってはここに自社特有の特徴を挙げて戦略を検討してください。
O(Opportunity)の各項目は両刃の刃です。
チャンスを生かすことができれば人財不足を含めた様々な課題を解決することができますが、乗り遅れると市場の中で後れを取ることにもつながりかねません。
T(Threat)は説明の必要がいらないくらいの共通認識です。

2-3 Cross SWOT 分析

S⇔O:自社の強みを生かしてチャンスを活かす戦略

  • 女性や高齢者によるバックオフィス部隊を編成し、設計や積算業務を任せる。部隊の運用はテレワークを活用した機動的なものにする。
  • 特定技術や作業のノウハウを大手や他社に先駆けてデータ化、標準化し、AI/ロボットに展開する。

S⇔T:自社の強みを活かして脅威を排除する。

  • ゼネコンデジタル対応プロジェクトチームを編成して全力をあげてゼネコンのデジタル化に追随する
  • ベテランたちのノウハウをデータ化、数値化しておく(S3-T2,S3-T3)
  • デジタル化のメリットを社内外に可視化し、共感社(者)でアライアンスを編成する
  • 雇用条件を改善して女性や若年層のエントリーを増やす

W⇔O:チャンスを活かすために自社の弱みを排除する

  • 柔軟な雇用形態と外部(建設業界以外)人材の利活用(W1-O1)
  • 同業によるアライアンスを目指し、設備やシステムの共同所有を行う(W3-O2)
  • 特定技術や作業のフランチャイズ化を目指す。そのためにその内容の標準化、データ化を徹底して推進する。

W⇔T:脅威による被害を最小化するために自社の弱点を排除する。あるいは撤退する

  • 元請のデジタル化に追随する余裕すらない場合は撤退する
  • 雇用条件の改善ができない場合は撤退する
  • ベテランからの技術継承ができない場合は撤退する

3,デジタル化の方向性

本稿の目的は例えばクロスSWOTで抽出したこのような課題と戦略をIT,デジタル技術で解決する方向性を例示することです。
「1.建設業のデジタル化、その現在位置」と「2.中小の建設企業を取り巻く環境変化と課題」でデジタル化に関連した方向性をいくつか整理しました。
①GCのデジタル化要請に協力する②業務の標準化と一体にしてデジタル化を推進する。③GCの圧力に負けない経営の独立性をデジタルで担保する。
①~③の方向性は難易度や顧客からの圧力の大きさもありますので、同時に実現させるのは現実的ではありません。

以下の順序で段階的に取り組むべきです。

3-1 元請のデジタル化要請への対応

戦略その1:ゼネコンデジタル対応プロジェクトチームを編成して全力をあげてゼネコンのデジタル化に追随する

大手ゼネコンを中心とした建設業界のデジタル化が進展しています。
これらゼネコンのデジタル化は自社の戦略をもって行われています。
こうしたデジタル圧力は協力会社にとって収益改善につながるとは限りませんし、経営の独自性も失われかねません。
それでも、現状の建設業界はゼネコンを頂点とした分業構造が定着しています。
元請のデジタル化要請への追随は好む好まざるにかかわらず建設企業の持続的運営には不可欠なものと言えます。
現在、国土交通省等が「i-Construction」という大きな枠組みを提唱していますが、実際に動き始めているのは建設EDI、グリーンファイル、CADとクラウドを利用した図面共有などです。
こうしたところから、積極的にゼネコンのデジタル化への協力を行うことは、コンプライアンスに縛られている各ゼネコンにおける自社の優位性につながるかもしれません。
逆に言えば、ここでデジタル化に追従できない企業はデジタル化と労働力不足により再構成されるゼネコンヒエラルキーから外れざるを得ない、ということになります。
そのためにはまず社内にデジタル化人材を育成する必要があります。ここは事項「社内業務の標準化とデジタル化」に関連してきます。

3-2 社内業務の標準化とデジタル化

戦略その2:女性や柔軟な雇用によるバックオフィス部隊を編成し、設計や積算、施工管理、労務管理といった業務の標準化とデジタル化に取り組む。

大手ゼネコンを中心とした建設業界のデジタル化の次のターゲットは建設生産システムの合理化とスピードアップです。
BIM(Building Information Modeling)やCIM(Construction Information Modeling)の導入は建設業界の趨勢になっています。
BIM/CIM後の建設基幹業務は共有されたデジタルデータを中心に計画、調査、設計、施工、管理が行われることになります。
「1.建設業のデジタル化、その現在位置」で中小建設業におけるERP基幹システム分野の伸び悩みを指摘しましたが、今後このテーマの中心はBIM/CIMになります。
例えば、BIMにより設計上の工事数量の自動算定からゼネコンからの指値の精度が上がるでしょう。協力会社はこれに合わせて予算の精度とスピードが求められるようになります。
そして、こうして決められた予算の範囲で収益を出せる実算管理が必要になります。
実算は出来高で管理されます。
出来高管理は一般的にはコストの予定値と実投入量、そして成果物の金額評価額を比較しながら行います。
しかし、現場のお金の流れをリアルタイムに把握するのは相当に困難です。
現場における人区の予定値と実投入量の動きを把握することはデジタル技術で可能になります。
労務管理にはこの人の流れを正確に把握するために精密さが要求されます。
いうまでもなく、正確な労務管理は出来高管理云々以前に社会的要請となっています。
この人口減少社会にあって、女性や高齢者の活用を目指していこうとするならば、公平で持続可能な就業環境を構築する必要があります。
魅力的な就業環境は、若者や女性のエントリーの機会を増大させます。また、テレワーク等を活用した就業の機動性は、経験のある高齢者の建設基幹業務への参画を可能にすることでしょう。
従来的な建設人材を確保することも重要ですが、女性や高齢者の活用によるバックオフィス機能の充実はこれからのBIM/CIM時代の最適解になるはずです。

3-3 IT利活用による独自戦略

戦略その3:その次の目標として自社技術や安全管理の標準化と数値化に取り組む。

戦略その4:標準化と数値化された自社のスキルをAIやロボットに展開する。

先に述べたように、建設業界のトップに位置する大手ゼネコン主導のデジタル化圧力は回避できるものではありません。
その圧力に徹底的に同調することは立派な戦略です。
しかし、現在のゼネコンのデジタル化には業界標準というものがありません。
デジタル化を契機に一つのゼネコンのサプライチェーンに埋没してしまうと、経営の独自性を維持できなくなる可能性があります。
経営の独自性を確保しつつ、多様な元請との関係を続けるためには、他社に模倣されにくい自社の強みを確立することが必要です。
バリューチェーンは自社が優位性をもつ一つ、あるいは複数のプロセスをその他の業務と組み合わせてより優位性が高く、かつ模倣されにくいプロセス群にすることです。
自社の優れた技術やプロセスをバリューチェーンに組み上げるためにはそのプロセスを標準化、数値化する必要があります。
デジタル化というテーマで論ずれば、こうして標準化した技術をAIやロボット(ドローン含む)に展開することができれば自社の強みを崩すことなく、ゼネコンに対しても経営の独自性を確保できる可能性が高くなります。
また、バリューチェーンは一つの企業で完結させる必要はありません。優位性を持つ企業同士のJV。離れた地域で活動する同業種のフランチャイズ的編成など、ネットを含めたデジタル技術はこうしたアライアンスも容易にします。
なお、自社技術やプロセスの標準化と数値化はバリューチェーンに限定した話ではありません。こうした優れた技術を持っているのは多くの場合、ベテラン以上の社員です。その技術を継承するためにもこの作業は重要になります。

4、結言

本稿ではSWOT分析をサンプル的に行いましたので、特に内部環境に関しては企業によって全く当てはまらないケースもあると思います。
例えば外部環境に関して、元請企業に対して優位なビジネスを続けておられるところもあるかもしれません。
ぜひ各企業に置かれては自社のSWOTとクロスSWOTにチェレンジしていただくとよいと思います。
勝手がわからないという企業様には企画工房イッテンキューロクとしてサポートもさせていただきますので、お気軽にお問い合わせください。
なお戦略策定は企業毎に、と申しましたが少子高齢化による働き手の減少と企業内の人材不足は間違いなく、建設業界共通の環境変化です。
戦略を策定するにしても、実施するにしてもその主体となる人材が確保できていないことには話になりません。
現在の建設業においてデジタル化の起点とすべきなのはそうした人材を確保するための就業環境の整備と、それを可能にする労務管理です。
労務管理はゼネコンのデジタル化やAI,ロボット化の影響を受けずに各企業のペースにより取り組むことのできるテーマです。
クラウド出面管理DMENはその労務管理を建設業向けに自動化する無料のクラウドシステムです。
また、現場の人流をインターネット経由でリアルタイムに把握することができますので、施工管理や安全管理への展開も可能です。
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